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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)97号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【事実】

第二 請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、別紙(一)記載のとおり角ゴジツク体で「エミー」の文字を左から右に横書きして成る登録第六五一九六二号商標(昭和三八年六月一三日、第一六類、織物、編物、フエルト、その他の布地を指定商品として登録出願、昭和三九年九月七日登録、昭和五〇年五月二六日商標権存続期間の更新登録。)の商標権者であるが、被告から昭和四〇年一一月二七日登録無効審判の請求(昭和四〇年審判第七七二八号)があり、特許庁は、昭和五二年二月一七日右商標登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は同年五月一四日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件商標と登録第六四六〇一一号商標(別紙(二)記載のとおり、角ゴジツク体で「エニー」及び「ANY」の文字を上下二段に左から右に横書きして成り、昭和三八年三月二〇日、第一六類、化学繊維、織物、その他本類に属する商品を指定商品として登録出願、昭和三九年六月三〇日登録、昭和四九年一一月二八日商標権存続期間の更新登録。以下「引用商標」という。)とは全体の外観上の対比においては区別しうる。

2 本件商標から「エミー」、引用商標から「エニー」の各称呼を生ずる。

そこで、両称呼を比較してみるに、両者はともに三音から成り、語頭の「エ」と語尾の長音(「ミ」又は「ニ」の持続音「イ」)を共通にし、中間の音「ミ」と「ニ」において差異を有するものであるところ、「ミ」は鼻子音「m」と母音「i」との結合した音であり、「ニ」は鼻子音「n」と母音「i」との結合した音である。してみると「ミ」と「ニ」はともに鼻子音と母音「i」との結合に係る弱音であるから、その相違するところは微差に過ぎない。

したがつて、両商標をそれぞれ一連に発音するときは、語韻語調が近似し、相紛れるおそれが充分あり、両商標は称呼の類似するものといわざるをえない。

3 観念についてみるに、本件商標の「エミー」が欧米の婦女子の名前を表わすものであり、また、引用商標の「エニー及び「ANY」が英語の「誰でも」「いくらでも」の意味を有するものであるとしても、一般の人々が、それらの語だけに接して即座にそのような意味を直感する程、馴れ親しんでいるということはできないから、本件商標の指定商品、したがつて、引用商標の指定商品の取引者、需要者のいずれにも、本件商標及び引用商標の各語が右のような意味において明瞭に認識され、識別されるものと認めることはできない。

したがつて、本件商標は、引用商標と観念において明らかに区別しうるものであるということはできない。

4 ところで、商標に接する取引者、需要者は、商標(商標の表徴するあらゆるもの)をそのまま、漏れなく正確に認識、記憶するものとは限らず、商標を総合的に観察して受ける知覚、印象のうち、あるいは外観、あるいは称呼、あるいは観念によつて記憶することがある等、その印象、記憶は画一でない。

したがつて、商品の取引者、需要者は、商標の総合的観察による印象、記憶に基づき、外観、称呼又は観念のいずれかによつて商品の取引に当ることが稀ではなく、また、それぞれの要素の混同によつて商品の出所の混同を生ずるおそれのあることは、商取引の経験則によつて明らかである。

しかるところ、本件商標の指定商品、したがつて、引用商標の指定商品については、称呼によつて取引されることがないという特別の事情の存在することは認められないから、全体の外観上、相違するところがあるとしても、観念上明確な差異を有しない両商標の関係において、称呼によつて商品の取引に当る場合、引用商標と称呼の類似する本件商標は、その商品の出所について引用商標と混同を生じさせるおそれは大きく、したがつて、本件商標は引用商標と類似の商標であるといわざるをえない。

5 本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一であり、その出願日も引用商標のそれより後である。

したがつて、本件商標は、商標法第四条第一項第一号の規定に該当し、その登録は該規定に違反してされたものであるから、同法第四六条第一項第一号の規定により、これを無効とすべきものである。

三 審決の取消事由

本件商標と引用商標とは、その構成上、取引上なんら相紛れるおそれのない非類似のものであるのに、審決は、両者を類似するものと誤つて判断したものであつて、違法で取消されるべきものである。

【判旨】

一本件商標について、その構成、指定商品及び登録年月日等登録無効審判の請求から審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯、引用商標の構成、指定商品及び登録年月日等、並びに審決の理由に関する原告主張の事実は、民事訴訟法第一四〇条第三項の規定により、被告において自白したものとみなされる。

二そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について考察する。

1 本件商標と引用商標との各称呼を比較するに、本件商標が「エミー」の、引用商標が「エニー」の称呼をそれぞれ有し、いずれも語尾を長音とする二音から成り、第一音の「エ」を共通にし、その差異が第二音である「ミ」と「ニ」にあり、「ミ」は「マ行」の第二音であつて、両唇を密閉して有声の気息を鼻腔に通じて発する鼻子音「m」と母音「i」との綴音「mi」であり、「ニ」は「ナ行」の第二音であつて、舌尖を前硬口蓋に触れて発する子音「n」と母音「i」との綴音「ni」であつて、両者は母音「i」を同じくし、その子音において「m」と「n」との差異があるとの原告主張の事実は、民事訴訟法第一四〇条第三項の規定により、被告において自白したものとみなされる。

しかしながら、「n」も鼻子音の一種であり、「ミ」と「ニ」との差異は微少であり、両商標をそれぞれ一連に発音するときは、語韻語調が近似し、相紛れるおそれが充分あり、両商標は、称呼において類似するものということができる。

2 ところで、本件商標と引用商標とは、外観上差異があるといつてよく、さらに、本件商標と引用商標との各観念を比較するに、本件商標の「エミー」が、欧文字の「EMMY」又は「EMMIE」の語の発音に通じ、この語が、ヨーロッパの婦人の名前としてきわめて普通に使用されているものであり、日本人に親しみ深く、また、引用商標の「エニー」「ANY」について、直ちに英語の「ANY」を直感し、「誰でも」「いくらでも」とかの意味を有する語としてきわめて容易に理解するとの原告主張の事実は、民事訴訟法第一四〇条第三項の規定により、被告において自白したものとみなされる。

しかしながら、右事実を考慮にいれても、本件商標と引用商標とが、その指定商品の取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者により、その観念上、明確に区別されうるものとは断定できない。ことに、「エニー」は英語のANYの発音表記としては必ずしも正確とはいえないこともあつて、これが英語の右語義のみを想起させるとはいい難いこと、それは、引用商標が字間を大きくとつた「エニー」の下に、これに比し字間をつめた「ANY」を表わして成ることと相まつて、「エニー」を強調していることに徴すれば、なおさらのことである。

3 ところで、商標に接する取引者、需要者が、商標を総合的に観察して受ける知覚、印象のうち、あるいは外観、あるいは称呼、あるいは観念によつて記憶する等、その印象、記憶が画一でないこと、そして、そのような印象、記憶に基づき、外観、称呼又は観念のいずれかによつて商品の取引に当ることが稀でないこと、したがつて、それぞれの要素の混交によつて商品の出所の混同を生ずるおそれのあることは、経験則の教えるところである。

してみれば、本件商標と引用商標とは、全体の外観において区別しうるが、称呼において類似し、観念上は明確な差異を有しないから、称呼によつて商品の取引に当る場合、両商標はその商品の出所について混同を生じさせるおそれが大きく、両商標は類似の商標であるといわざるをえない。したがつて、審決には原告主張の取消事由は存在しない。

(荒木秀一 石井敬二郎 橋本攻)

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